こんにちは、とらです。
音響の仕事を30年近くやってきましたが、久々にハマりました(笑)。
編集画面のピークは-6dB。でも、書き出したMP3を測ると-12dB。
どこにも6dBを下げた覚えがないのに、全ファイル一律で落ちていました。
結論から書きます。原因は「サンプルタイプの変換」ダイアログのLミックス/Rミックスが、初期値の50%のままだったことでした。
50%は振幅で言えば-6dB。モノラルをステレオに変換した瞬間に、各chが6dB下がります。
この記事でわかることは3つです。
- なぜモノラル→ステレオ変換でレベルが下がるのか(仕組み)
- 50% / 71% / 100% のどれを選ぶべきか(目的別)
- 二度と事故らないための工程順と、書き出し後の測り方
何が起きたか──2回の差し戻しでようやく気づいた
音声コンテンツの受託編集で、納品後に指摘が入りました。
「MP3にモノラルが混在している」「ピークが-6dB上限のはずが-12dB上限になっている」。
指摘は明快でした。だから全ファイルをステレオに統一し、ピークを-6dBに揃えて再納品しました。
でも、また差し戻されました。
「全ファイルが-12dBのままです」。
ここで初めて、自分の手元と納品先で見えているものが違う、と気づきました。
編集画面は正しかった。振幅統計で確認する
まず自分の作業を疑います。Auditionには数値で確認する手段があります。
振幅統計パネルの開き方
波形エディターでファイルを開き、ウィンドウ > 振幅統計 を開いて「スキャン」。
ピーク振幅、平均RMS、真のピーク振幅が数値で出ます。
耳やメーターの見た目ではなく、この数値で判断します。
編集画面-6dB/書き出し後-12dBの対比
編集画面でスキャンすると、ピーク振幅は-6dB。正しい。
ところが、書き出したファイルを開き直してスキャンすると-12dB。
つまり、編集と書き出しの間で6dB落ちている。
作業ミスではなく、工程のどこかに自動で音量を下げる処理が挟まっている、ということです。
原因は「サンプルタイプの変換」だった

犯人は 編集 > サンプルタイプの変換 でした。
モノラルをステレオに変換するとき、このダイアログには「Lミックス」「Rミックス」というパーセンテージ欄があります。
初期値はどちらも50%。
振幅50%は、デシベルにすると約-6dB。
モノラル1chの信号を、L/Rそれぞれに50%ずつ配って2chにする。
だから変換した時点で、各チャンネルのピークは元より6dB低くなります。
なぜ初期値が50%なのか
意地悪な仕様ではありません。理屈があります。
同じ信号を2つ足し合わせると、合計レベルは6dB上がります。
L/Rに100%ずつ配ってしまうと、ステレオをモノラルにサミングして再生する環境では音が6dBオーバーして歪む可能性がある。
50%は、そのモノラル互換性を守るための妥協値です。
用途としては正しい。ただ、ピーク基準で納品仕様が決まっている仕事とは相性が悪い。
Adobe公式ヘルプに警告はない
日本語版の公式ヘルプには、Lミックス/Rミックスの説明はありますが、「変換するとレベルが下がる」という注意書きは見当たりませんでした。
英語圏のAdobeコミュニティでは、初期値50%=-6dBであることが指摘されていて、「71%にしろ」という回答も出ています。
つまり現象自体は既知。ただ、日本語で解説している記事はほぼ見つかりませんでした。
設定値は目的で変わる(50% / 71% / 100%)
ここがこの記事の核心です。
英語フォーラムの回答は「71%にせよ」で止まっていますが、目的によって正解は変わります。
| 設定値 | 効果 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 50%(初期値) | 各chが約-6dB低下 | ステレオ/モノラル互換性を優先するとき |
| 71% | 各chが約-3dB低下。L+Rの合計レベルが元と一致 | 聴感上の音量を保ちたいとき |
| 100% | 各chのピークが元と一致 | 納品仕様がピーク基準のとき |
私の案件は「ピーク-6dB上限」という指定でした。
だから正解は100%。71%では-3dB残ってしまい、指定値には届きません。
逆に、モノラル再生も想定される配信素材なら50%のままが安全です。
「71%が正解」と丸暗記すると、次の案件でまた事故ります。
欄がグレーアウトして触れないとき
もうひとつ、つまずきやすいポイントがあります。
変換元がすでにステレオの場合、Lミックス/Rミックスの欄がグレーアウトして編集できない状態になることがあります。チャンネル数が変わらないためと考えられます(この理由は筆者の推測です。挙動としてグレーアウトすることは確認しています)。
ここで「触れないんだから、この設定は今回関係ない」と判断してしまう。
これが落とし穴です。
関係あるのはモノラル素材が1本でも混ざっている場合で、そのファイルだけが6dB低いまま納品物に混ざります。
対処法:工程順を入れ替える
やることは単純です。音量を決める工程を、変換より後ろに置く。
- サンプルタイプの変換でステレオ化する(この時点のレベルは気にしない)
- 振幅調整+ハードリミッターでピークを目標値に合わせる
- 書き出す(サンプルタイプは「ソースと同じ」)
これだけで直りました。
先に音量を作り込んでから変換すると、その努力が最後に6dB持っていかれます。
バッチ処理は2パスで回す
複数ファイルをバッチ処理で流す場合も同じです。
1つのお気に入り(アクション)に全部詰め込まず、2パスに分けます。
- 1パス目:サンプルタイプの変換のみ
- 2パス目:振幅調整+ハードリミッター+書き出し
工程を分けると、途中経過を測れます。
どこで6dB落ちたのかが後から追えるようになる。これが一番大きい。
教訓:編集画面ではなく、書き出したファイルを測る
今回いちばん効いた反省はこれです。
編集画面の数値は、書き出し後の数値を保証しません。
間に変換とディザとエンコードが挟まる以上、別物として扱うべきでした。
なので、納品前の最終確認はアップロード先から自分でダウンロードし直したファイルに対して行うことにしました。
手元の書き出しフォルダではなく、相手が受け取るものを測る。
面倒です。でも、差し戻し2回よりは安い。
ffmpegで一括測定する(上級者向け)
ファイル数が多いなら、目視より機械です。
for f in *.mp3; do
echo "== $f"
ffmpeg -i "$f" -af volumedetect -f null - 2>&1 | grep max_volume
done
max_volume がピーク値です。全ファイル分を一覧で出して、指定値を超えている/足りないものだけ拾えば、目視チェックは要らなくなります。
まとめ
- Auditionのモノラル→ステレオ変換は、Lミックス/Rミックス初期値50%=約-6dBで自動的にレベルが下がる
- 設定値は目的次第。ピーク基準の納品なら100%、聴感音量維持なら71%、モノラル互換重視なら50%
- 音量調整は変換の「後」に置く。工程順を入れ替えるだけで解決する
- 編集画面の数値は信じない。書き出した実ファイル、できれば納品先から落とし直したファイルを測る
ひさびさに私もハマったところなので、もし「書き出したら音が小さい」で行き詰まっているなら、まずサンプルタイプの変換ダイアログを開いてみてください。だいたいそこにいます。
※検証環境:Adobe Audition v【要記入】/Windows 11。
バージョンによって挙動の報告に差があるため、ご自身の環境でも一度テストしてから運用してください。

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