🎧 音声編集・舞台音響のご相談はこちら → 詳細ページ

サックスのマイキングはベルを狙わない|音が出ているのはトーンホール

スポンサーリンク
音響・技術

こんにちは、とらです。

ライブハウスや小ホールで、サックスにマイクを立てる場面。
ベルのリムにクリップマイクを挟んで、カプセルはベルの中へ。はい完了。

よく見る光景ですね。

でも、フェーダーを上げると、なぜか芯が出ない。

太いことは太い。下はしっかり出ています。
ところが、抜けてこない。倍音が薄い。バンドに混ぜると埋もれる。

そこでEQに手が伸びます。ローを削って、2kあたりを持ち上げて、少しプレゼンスを足して。
それでも、どこか作り物っぽい音のまま残る。

先に結論を書きます。
これはEQの問題ではなく、位置の問題です。

サックスの音は、ベルから出ていません。


スポンサーリンク

管楽器はベルを狙う。
この習慣は、トランペットやトロンボーンからの類推でできたものです。

金管は、管の途中に穴が開いていません。息の作った振動は管の中を通り抜けて、最後にベルから外へ出る。だからベルを狙うのは理屈に合っています。

サックスは違いました。
管の側面に、たくさんの穴が開いています。トーンホールです。

鳴っているのは、開いているトーンホールの周り

トーンホールが開いていれば、そこで管は外につながります。音は、開いている一番上の穴の周辺から外へ出ていく。閉じたキーより先へは、ほとんど回りません。

つまり中域から高域では、放射源はベルではなく、開口部の周辺です。
ベルは、その先にぶら下がっている管の残りでしかない。

音源が、管の上を移動する

ここがサックスの厄介なところです。

運指が変われば、開いている穴の位置も変わります。
低い音を吹けば開口は下、高い音へ上がれば開口はマウスピース寄りへ移動する。

音源が固定されていないんです。
フレーズを吹くたびに、音の出どころが管の上をスライドしていく。

ドラムのシェルやギターアンプのコーンのように「ここが音源」と決め打ちできない。これが、他の楽器と決定的に違う点です。

ベルが主役になるのは最低域だけ

例外はあります。
すべてのキーを塞いだ最低音域。ここだけは、行き場を失った音がベルから出ていきます。

だからベル正面のオンマイクは、こういう鳴り方をします。

最低域だけが至近距離で張り出し、演奏の大半を占める中高域は、マイクの正面から外れた場所で鳴っている。

低音が過剰で、倍音が痩せる。
EQでどれだけ整えても、そもそもマイクが拾えていない成分は戻ってきません。


置き方①クリップオン|ベルに付ける、でもベルは狙わない

現場でいちばん出番が多いのはクリップオンです。DPA 4099、audio-technica ATM350、Beta 98系あたり。

固定するのはベルのリムで構いません。物理的に、そこが唯一まともに挟める場所ですから。

問題は向きです。

カプセルをベルの内側へ向けない。
アームをひねって、ボディ側、キーの並んでいる面へ振る。

「ベルに付ける」と「ベルを狙う」は別の話です。ここを分けて考えるだけで、音は変わります。

利点は明快です。演者との距離が変わらないので位置が崩れない。近接ぶんゲインを稼がなくて済むので、ハウリングマージンが取れる。ソロで前へ出ようが、袖へはけようが、音が付いてくる。

引き換えに拾うものもあります。
キーノイズとパッドノイズ。指がパタパタ動く音、パッドがトーンホールを塞ぐ音。距離が近いぶん、これが素通しで入ってきます。

そして近いということは、逃げ場が少ないということでもある。
数センチの振り角の違いが、そのまま音色の違いになって出ます。仕込みの時点で詰めておく前提の置き方です。


置き方②スタンドマイク|キーエリアの上から

演者の立ち位置が動かないなら、スタンドという手があります。

狙うのは、キーエリアの中央。そこから上方へ20〜40cmあたり。
数字は目安です。会場の広さ、周りの音量、その日の楽器で普通に動きます。

ひとつ気をつけたいのは角度です。
ベルの軸線に乗せない。真っすぐ正面に立てると、低域が溜まって、結局クリップをベルに向けたときと同じことが起きます。

軸から外して、斜め上から見下ろす。
これで低域の押し出しが落ち着いて、キー側の中高域が入ってきます。

弱点は動きに弱いこと。
演者が半歩ずれれば音は変わるし、ソロで前へ出れば軸から完全に外れます。座奏の吹奏楽、動きの少ないビッグバンドのセクション、こういう現場向きです。


置き方③オフマイク|混ざった鳴りを取りにいく

50cmから1mほど離す置き方もあります。

この距離まで下がると、トーンホールから出た音もベルから出た音も、空気の中で一度混ざってからマイクに届きます。楽器全体としての鳴りになる。

サックスらしい響きという意味では、いちばん自然です。
録音、アコースティック寄りの編成、PAをうっすら足すだけの現場。こういう場面で効きます。

ただしゲインは取れません。
距離ぶんレベルが落ちるので、その差をアンプで埋めることになる。同時に周りの音も同じだけ入ってきます。ドラムの隣で1m離せば、それはもうサックスマイクではなくドラムマイクです。

音量の出ている現場では、選択肢に入らない。そういう置き方です。


ここまで書いてきたのは、アルトとテナーの話です。この2本は基本形どおりで問題ありません。

バリトンは事情が変わります。
管が長く、低域の比重が大きい。ベルからの放射が無視できる量ではなくなります。

余裕があるならベルとキーの2本立て。
1本で済ませるなら、その中間を狙う。キー寄りに振りつつ、ベルを完全には切り捨てない位置です。

ソプラノは逆で、放射位置がそもそも上に寄っています。
上管のトーンホール周辺を押さえれば足ります。ベルまで下りる必要はありません。

同じサックスという括りでも、狙う場所は楽器で動く。
理由は結局ひとつで、開口がどこにあるかです。


持ち帰ってほしいのは一行です。

サックスは、ベルを狙わない。

中高域は開いているトーンホールの周りから出ていて、その位置は運指で動く。ベルが主役になるのは、全部のキーを塞いだ最低域だけ。

だからベル正面に立てると、低域だけが張り出して倍音が引っ込みます。

そして、いちばん言いたいのはここです。

マイクが拾っていない成分は、EQでは戻ってこない。

音が細いとき、抜けないとき、手が先に卓へ伸びます。
でもその前に、ステージに戻ってマイクの向きを10度変えるほうが、はるかに速いことがある。

俺自身、しばらくベルに向けたまま卓で戦っていました。
変わったのは現場ではなく、狙う場所のほうでした。

マイキングの「なぜ」を掘る話は、JC-120を前後2本で録るときの極性と位相や、MSマイクがステレオにならないときの切り分けでも書いています。同じ考え方で読めるはずです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました