こんにちは、とらです。
ライブハウスや小ホールで、サックスにマイクを立てる場面。
ベルのリムにクリップマイクを挟んで、カプセルはベルの中へ。はい完了。
よく見る光景ですね。
でも、フェーダーを上げると、なぜか芯が出ない。
太いことは太い。下はしっかり出ています。
ところが、抜けてこない。倍音が薄い。バンドに混ぜると埋もれる。
そこでEQに手が伸びます。ローを削って、2kあたりを持ち上げて、少しプレゼンスを足して。
それでも、どこか作り物っぽい音のまま残る。
先に結論を書きます。
これはEQの問題ではなく、位置の問題です。
サックスの音は、ベルから出ていません。
サックスの音は、どこから出ているのか

管楽器はベルを狙う。
この習慣は、トランペットやトロンボーンからの類推でできたものです。
金管は、管の途中に穴が開いていません。息の作った振動は管の中を通り抜けて、最後にベルから外へ出る。だからベルを狙うのは理屈に合っています。
サックスは違いました。
管の側面に、たくさんの穴が開いています。トーンホールです。
鳴っているのは、開いているトーンホールの周り
トーンホールが開いていれば、そこで管は外につながります。音は、開いている一番上の穴の周辺から外へ出ていく。閉じたキーより先へは、ほとんど回りません。
つまり中域から高域では、放射源はベルではなく、開口部の周辺です。
ベルは、その先にぶら下がっている管の残りでしかない。
音源が、管の上を移動する
ここがサックスの厄介なところです。
運指が変われば、開いている穴の位置も変わります。
低い音を吹けば開口は下、高い音へ上がれば開口はマウスピース寄りへ移動する。
音源が固定されていないんです。
フレーズを吹くたびに、音の出どころが管の上をスライドしていく。
ドラムのシェルやギターアンプのコーンのように「ここが音源」と決め打ちできない。これが、他の楽器と決定的に違う点です。
ベルが主役になるのは最低域だけ
例外はあります。
すべてのキーを塞いだ最低音域。ここだけは、行き場を失った音がベルから出ていきます。
だからベル正面のオンマイクは、こういう鳴り方をします。
最低域だけが至近距離で張り出し、演奏の大半を占める中高域は、マイクの正面から外れた場所で鳴っている。
低音が過剰で、倍音が痩せる。
EQでどれだけ整えても、そもそもマイクが拾えていない成分は戻ってきません。
置き方①クリップオン|ベルに付ける、でもベルは狙わない
現場でいちばん出番が多いのはクリップオンです。DPA 4099、audio-technica ATM350、Beta 98系あたり。
固定するのはベルのリムで構いません。物理的に、そこが唯一まともに挟める場所ですから。
問題は向きです。
カプセルをベルの内側へ向けない。
アームをひねって、ボディ側、キーの並んでいる面へ振る。
「ベルに付ける」と「ベルを狙う」は別の話です。ここを分けて考えるだけで、音は変わります。
利点は明快です。演者との距離が変わらないので位置が崩れない。近接ぶんゲインを稼がなくて済むので、ハウリングマージンが取れる。ソロで前へ出ようが、袖へはけようが、音が付いてくる。
引き換えに拾うものもあります。
キーノイズとパッドノイズ。指がパタパタ動く音、パッドがトーンホールを塞ぐ音。距離が近いぶん、これが素通しで入ってきます。
そして近いということは、逃げ場が少ないということでもある。
数センチの振り角の違いが、そのまま音色の違いになって出ます。仕込みの時点で詰めておく前提の置き方です。
置き方②スタンドマイク|キーエリアの上から
演者の立ち位置が動かないなら、スタンドという手があります。
狙うのは、キーエリアの中央。そこから上方へ20〜40cmあたり。
数字は目安です。会場の広さ、周りの音量、その日の楽器で普通に動きます。
ひとつ気をつけたいのは角度です。
ベルの軸線に乗せない。真っすぐ正面に立てると、低域が溜まって、結局クリップをベルに向けたときと同じことが起きます。
軸から外して、斜め上から見下ろす。
これで低域の押し出しが落ち着いて、キー側の中高域が入ってきます。
弱点は動きに弱いこと。
演者が半歩ずれれば音は変わるし、ソロで前へ出れば軸から完全に外れます。座奏の吹奏楽、動きの少ないビッグバンドのセクション、こういう現場向きです。
置き方③オフマイク|混ざった鳴りを取りにいく
50cmから1mほど離す置き方もあります。
この距離まで下がると、トーンホールから出た音もベルから出た音も、空気の中で一度混ざってからマイクに届きます。楽器全体としての鳴りになる。
サックスらしい響きという意味では、いちばん自然です。
録音、アコースティック寄りの編成、PAをうっすら足すだけの現場。こういう場面で効きます。
ただしゲインは取れません。
距離ぶんレベルが落ちるので、その差をアンプで埋めることになる。同時に周りの音も同じだけ入ってきます。ドラムの隣で1m離せば、それはもうサックスマイクではなくドラムマイクです。
音量の出ている現場では、選択肢に入らない。そういう置き方です。
楽器ごとの違い|バリトンとソプラノは別扱い
ここまで書いてきたのは、アルトとテナーの話です。この2本は基本形どおりで問題ありません。
バリトンは事情が変わります。
管が長く、低域の比重が大きい。ベルからの放射が無視できる量ではなくなります。
余裕があるならベルとキーの2本立て。
1本で済ませるなら、その中間を狙う。キー寄りに振りつつ、ベルを完全には切り捨てない位置です。
ソプラノは逆で、放射位置がそもそも上に寄っています。
上管のトーンホール周辺を押さえれば足ります。ベルまで下りる必要はありません。
同じサックスという括りでも、狙う場所は楽器で動く。
理由は結局ひとつで、開口がどこにあるかです。
まとめ|EQを触る前に、位置を疑う
持ち帰ってほしいのは一行です。
サックスは、ベルを狙わない。
中高域は開いているトーンホールの周りから出ていて、その位置は運指で動く。ベルが主役になるのは、全部のキーを塞いだ最低域だけ。
だからベル正面に立てると、低域だけが張り出して倍音が引っ込みます。
そして、いちばん言いたいのはここです。
マイクが拾っていない成分は、EQでは戻ってこない。
音が細いとき、抜けないとき、手が先に卓へ伸びます。
でもその前に、ステージに戻ってマイクの向きを10度変えるほうが、はるかに速いことがある。
俺自身、しばらくベルに向けたまま卓で戦っていました。
変わったのは現場ではなく、狙う場所のほうでした。
マイキングの「なぜ」を掘る話は、JC-120を前後2本で録るときの極性と位相や、MSマイクがステレオにならないときの切り分けでも書いています。同じ考え方で読めるはずです。

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